介護のこぼれ話
90代半ばのAさんは、いつも元気いっぱいで周りを明るくしてくれるお茶目な方です。テレビに夢中で食事を忘れてしまうおじいちゃんにも、Aさんの一言でしっかり食べてくれることに。Aさんが「食べないの?作ってくれた人に失礼よ!」と、笑顔で叱ると、おじいちゃんも「Aさんにはかなわないな」と笑いながら、しっかり食事を続けます。
そんな世話好きなAさんですが、認知症もあり、時には介助を拒否されることもあります。ある晩、いつものように総入れ歯を洗浄剤に漬けようと促すと、Aさんがキョトンとした顔で言いました。「何言ってるの?これ全部自分の歯よ!入れ歯なんかしてないわよ!」
それから「入れ歯ですよ」と私が言うと、「違うわよ!」と反論。そこで私は「じゃあ、触って確かめさせてください。確認できたら納得しますから」と言いました。Aさんは渋々と、「そんなに言うなら、いいわよ」と折れてくれました。
その隙を逃さず、私はグローブをはめて、Aさんの口から上下の総入れ歯をサッと取り出しました。その瞬間、Aさんが両目を大きく見開いて言いました。「あら、あなた、魔法使いだったの!? 私の歯、魔法で取れたわ!全部きれいに取れちゃったわ!!」
そしてAさんは大声で、「ねー、みんな、聞いて!この人、魔法使いよー!」と、周りに話し始めました。
心の中で「そっか、私はホグワーツの卒業生だったのか…」と思いながら、慌ててAさんをなだめに行くのでした。

コメント